児童書

「絵画をみる、絵画をなおす 保存修復の世界」を読んで

「絵画をみる、絵画をなおす 保存修復の世界」田口かおり/著 (偕成社)

みんなの「知りたい」を応援するノンフィクションシリーズ


内容

著者は、修復家の田口かおりさん。
田口さんが修復家になった道のりのほか、絵画の修復がどのように行われるのか、保存修復の方法や工程、保存修復する際の考え方がわかります。

学びポイント

夢への道程

田口さんが、修復家になったきっかけは、両親に連れられて行った、15歳の時のイタリア旅行でした。
乗り物に弱く、この旅行も全く乗り気でなかった田口さんですが、ミラノのドゥオーモ(大聖堂)やフラ・アンジェリコの「受胎告知」といった作品に出会い、衝撃を受けます。
過去の芸術が今も生き生きとした色彩で残っているという奇跡に感銘を受け、美術を後世に残す、という仕事に携わるにはどうすれば良いか、準備することになります。

イタリアで保存修復を学ぶための留学枠がある大学を選択、そしてイタリアの修復学校へ留学。
外国語で学び、試験を受けなければならないという困難を、世界中から集まった同志たちと乗り越え、イタリアの工房に所属、保存修復の現場に出ていきます。

こちらの本は、保存修復の方法や考え方についての内容がメインではあるのですが、著者が自身の思い定めた分野で学びを深めキャリアを重ねていく道程が、気負いのない丁寧な文章で記されていて、それが大変心地よかったです。
将来の仕事について考える世代に、おすすめです。

修復のルール

修復する際のルールの一つとして、「修復した場所がどこなのか、わかるようにしておくこと」というのがあるのに驚きました。
どこを修復したか、わからないようにするものだと思っていました。
それには、今自分たちが行っている修復方法がもしかしたら間違っているかもしれない、という考えが根底にあるそうです。
未来の修復家が、やり直そうと思った時に、元々の作品はどこまでかわかるように修復を行うのだそうです。

作品への暴力について

世界各国の美術館の絵画や、文化的遺産を攻撃する事件が最近相次いています。
このような行為についての、著者の考えも述べられています。
芸術、特に修復に携わる側の方の考えを耳にしたことがなかったので、いろんな人に読んでいただきたいなと思いました。

感想

絵画の修復、といって私が思い出せるのは、今から10年くらい前、スペインの教会のイエス・キリストの肖像画を似ても似つかない姿に修復してしまった、という事件くらいしかありませんでしたので、大変勉強になりました。
今後、美術館へ足を運ぶときの見所が増えた気持ちで、楽しみです。